和歌と俳句

與謝野晶子

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あらぬを忌み あらぬを妬む ものおそれ 才なるものの 病なるべき

東海寺 牡丹の庭に 見て泣きぬ すでに病ませし 偉なるおん方

地の百日 わが目わが師を えうつさず 戸に立ちとへど 野にきて呼べど

火ならねば なに燃えしめむ 地のひとりを ただたひらかに 守りまつる恋

母こそは 何に生きしと 知らむ日の 汝が頬おもへば うつくしきかな

椿おちて けはひの水に 凍てたりと 口疾に告げぬ 紅ささぬ顔

うつくしき 花屋が妻の 朝髪と わが袖と吹く 春の風かな

君に似し 白と濃紅と かさなりて 牡丹ちりたる かなしきかたち

六尺は 魔におちやすき 春のたけと 髪はそがせつ 山ずみにして

ああ聖母 母なり子なり 君に肖ると 御像なでしも 少女なりし日

われも人も 兄に惜しみし 舞ごろも 藤ばな染を 二の児に裁ちぬ

春の夜を 説けな御功徳 法華経に 誓ひやや似る もの報謝せむ

われ若うて ちさき扇の つまかげに かくれて観たる 恋のあめつち