和歌と俳句

小林一茶

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

蚊いぶしもなぐさみになるひとり哉

大の字に寝て凉しさよ淋しさよ

行な都は夜もやかましき

なくや我家も石になるやうに

蚤の迹それもわかきはうつくしき

旅人や山に腰かけて心太

たのもしや西紅の雲の峰

麻の葉に借銭書て流しけり

何事の一分別ぞ蝸牛

夕月や大肌ぬいでかたつぶり

一尺の滝も凉しや心太

人来たら蛙となれよ冷し瓜

投出した足の先也雲の峰

鵜舟から日暮広がるやうす哉

鳴や天にひつつく筑摩川

とうふ屋が来る昼皃が咲にけり

蚤蝿にあなどられつつけふも暮ぬ

蝸牛見よ見よおのが影ぼふし

死んだならおれが日を鳴け閑古鳥

三日月に天窓うつなよほととぎす

うす甘い花の咲けりかんこ鳥

灰汁の水が澄きるわか葉

おもしろいよるは昔也更衣

世に倦た皃をしつつも更衣

蚊柱の穴から見ゆる都哉