うたたねの 君がかたへの 旅づつみ 恋の詩集の 古きあたらしき
戸に倚りて 菖蒲売る子が ひたひ髪に かかる薄靄 にほひある朝
五月雨も むかしに遠き 山の庵 通夜する人に 卯の花いけぬ
四十八寺 そのひと寺の 鐘なりぬ 今し江の北 雨雲ひくき
人の子に かせしは罪か わがかひな 白きは神に などゆづるべき
ふりかへり 許したなへの 神だたみ 闇くる風に 春ときめきぬ
夕ふるは なさけの雨よ 旅の君 ちか道とはで 宿とりたまへ
巌をはなれ 谿をくだりて 躑躅をりて 都の絵師と 水に別れぬ
春の日を 恋に誰れ倚る しら壁ぞ 憂きは旅の子 藤たそがるる
油のあと 島田のかたと 今日知りし 壁に李の 花ちりかかる
うなじ手に ひくきささやき 藤の朝を よしなやこの子 行くは旅の君
まどひなくて 経ずする我と 見たまふか 下品の仏 上品の仏
ながしつる 四つの笹舟 紅梅を 載せしがことに おくれて往きぬ
奥の室の うらめづらしき 初声に 血の気のぼりし 面まだ若き
人の歌を くちずさみつつ 夕よる 柱つめたき 秋の雨かな
小百合さく 小草がなかに 君まてば 野末にほひて 虹あらはれぬ
かしこしと いなみにいひて 我とこそ その山坂を 御手に倚らざりし
鳥辺野は 御親の御墓 あるところ 清水坂に 歌はなかりき
御親まつる 墓のしら梅 中に白く 熊笹小笹 たそがれそめぬ
男きよし 載するに僧の うらわかき 月にくらしの 蓮の花船