和歌と俳句

與謝野晶子

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忍辱の かたはし知らぬ 生出家を をしへむほどの 殊勝にも居ぬ

六年へぬ かしこき人に いさめられ おろかなる世に どよまれながら

酷寒の 氷の垢離も かづかむと なげきし我を あざみ給へど

赤ら竹 横に紫竹に 白すすけ 乞食に似たる 野良藪も見る

祭店 人げいきれど おしろいの 襟あしいくつ 凉しならびぬ

こき梅を よしと思はぬ 人の子を とらへてまゐれ 紅衣の童

春の月 うすくれなゐの 木珊瑚に 大き玉よる 海と見るかな

仁和寺を 小高き岡に ながめつつ 嵯峨へいそぎぬ 春のをぐるま

秋の朝 旅びとあゆむ 大地は しづかなること 湖に似て

五つとせと 三月十日と 今日までを かぞへたがへぬ やつやつしさよ

末の世に 双なき人と 逢ひそめし 悪因縁を 美くしむかな

春の日の 御室のやうに くれなゐの 花氈ならびぬ 顔見世の家

朝谷に こだまよろこぶ ちさき子か 思ふとわれに のたまふ君は

思ひしみ ものめですなる 身のさがは あらぬ子としも 死なむと云ひぬ

藤の花 はなこそ手して 紙燭とる 夜とも思ひぬ 艶なる君を

野の鳥の 長閑なく声に 似し少女 黍がらに居て ものを云ふかな

春の寺 弥勒婆羅門 般若の画 小院だちかくや 百間の壁

七宝の 釵子さしたる ひたひ髪 牡丹の気にぞ ぬれにけるかな

わかき子は 筆ある幸を 大としぬ 病みたる馬は 口籠さるるに

万物は 金のぬき糸 しろがねの 経に織りける 中に在り昼