和歌と俳句

與謝野晶子

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かたりつつ 呪文のやうに 指ふりぬ 膝枕く玉の 御額のうへに

春の日や 兵船つづく 海原の 一方に見る むらさきの島

空ぐるま 轅をおろす 音なしに 似たるさびしき 終なるべし

ふるさとは 海を見に行く 砂原の 撫子ぬらし 夏の雨ふる

おしろいの 夜はだに凉し 河のかぜ 橋を余所げに 来る子をまてば

相見ける 後の五とせ 見ざりける 前の千とせを 思ひ出づる日

若き鳥 上り羽のして 大ぞらを 見る目に似たり わがはらからよ