和歌と俳句

與謝野晶子

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小雨ふる 赤城平の 百合の花 なでしこ交り しやがまじり咲く

伯父の寺 ただ一もとの さぼてんに 春雨ふりし 庭のこひしき

春の宵 君きませよと 心みね あつめて念ず 小ばしらのもと

かずしらず 思ひつらねて 居ながらに こと三つばかり うしとし告げぬ

二十三 人をまねびて そら笑す 男のすなる いつはりも云ふ

花にほふ 二十四季をば 心とし ゆくぞと云ひし われすてし人

涙おちぬ 君が御息と くろ髪の むつまじう寝し 朝のわかれに

紅梅の 古木われらの 語る時 かしましとせし うぐひすの家

京の山 紅の花氈を 東西の 大路のかずに しかせてあそぶ

山ざくら 四月の春の 天明に 嵯峨の橋見る わが七少女

かはせみや 前のながれの 円石 つぶつぶかわき 冬の日はきぬ

みなうつくし 白の円石 の石 君が袂を まろびいづるとき

尼寺は 女の衣の 色ならぬ 黄蓮さきぬ 秋ちかき日に

人ならず われさへ弄す この心 きたなきものと 明日は泣くべき

とく過ぎむ をしきよはひを 悲しみて 香はたけども 衣きよそへど

山寺の 一重の桜 ちるに似て さびし朝の 星きゆるそら

おん屏風 女歌しぬ 小倉山 あらし山など 裾がきにして

春の月 恋しき人の 重げやと 云ふなる上の 衣ぬぎて見ぬ

きさらぎの 末黒の草に 雪ちるを いでて見たまへ 馬めづる君

紫に 恋のよろこび かなしみを とかして小雨 花の木にふる