秋の雲 はかな心の 人待に 涙ながして ありとおもひぬ
もとむるや 星にもあらぬ 花ならぬ 少女にあらぬ 触穢の人を
清かるに さからふものは なしとしき 胸より亡ぶ はしも知らぬ日
いざよひの 月のかたちに 輪乗して いにける馬と 人をわすれず
菊の香の ほのかにしみぬ よもぎ生や わが暁の 車の轅
春の雨 君は都の 大道を うすむらさきの 傘さして練る
なげくとき こじと云ひけり わが心 泣きにやゆきし 間遠になりぬ
耳ひきて やさしき言葉 なよりきぬ 遠めづらなる 思はこぶと
心をとる 筑紫女や よき京や よき誰そあながまと さかしらにするは
朝がほの 紅むらさきを 一いろに 染めぬわりなき 秋の雨かな
住の江や 和泉の街の 七まちの 鍛冶の音きく 菜の花の路
石だたみ 履にすりゆく 祭り日の 花笠人を 思ひ初めてし
牡丹こそ 咲かば諸王に まゐらせめ 誰れに着せまし わが恋ごろも
とばり帳 並めてあらせむ 早春の あうら玉と云ふ 椿の少女
久方の 春日の宮と 人の世の さかひもわかず 微雨つきずふる
水を見る 楼の四角の しら玉の はしらにかけぬ むらさきの藤
若人は きそひ馬しぬ 羽あるに 御してきたるは 一人なれども
半生は 半死におなじ はた半 君におもはれ あらむにひとし
われ一人 北地よりこし 客人の ごとくにありぬ 少女の中に
菊の花 咲きぬ不断に いみじくも 薫陸もるや しろ銀の皿