若山牧水

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春や白昼 日はうららかに 額にさす 涙ながして 海あふぐ子の

声あげて われ泣く海の 濃みどりの 底に声ゆけ つれなき耳に

わだつみの 白昼のうしほの 濃みどりに 額うちひたし 君恋ひ泣かむ

忍びかに 白鳥啼けり あまりにも 凪ぎはてし海を 怨ずるがごと

わがこころ 海に吸はれぬ 海すひぬ そのたたかひに 瞳は燃ゆるかな

われまよふ 照る日の海に 中ぞらに こころねむれる 君が乳の辺に

眼をろぢつ 君樹によりて 海を聴く その遠き音に なにのひそむや

ああ接吻 海そのままに 日は行かず 鳥翔ひなから 死せ果てよいま

接吻くる われらがまへに 涯もなう 海ひらけたり 神よいづこに

山を見よ 山に日は照る 海を見よ 海に日は照る いざ脣を君

松透きて 海見ゆる窓の まひる日に やすらに睡る 人の髪吸ふ

ともすれば 君口無しに なりたまふ 海な眺めそ 海にとられむ

君かりに かのわたつみに 思はれて 言ひよられなば いかにしたまふ

ふと袖に 見いでし人の 落髪を 脣にあてつつ 朝の海見る

ひもすがら 断えなく窓に 海ひびく 何につかれて 君われに倚る

誰ぞ誰ぞ誰ぞ わがこころ鼓つ 春の日の 更けゆく海の 琴にあはせて

夕海に 鳥啼く闇の かなしきに われら手とりぬ あはれまた啼く

鳥白し なにぞあれ行く われ離り ゆふべ明るき 海のあなたへ

夕やみの 磯に火を焚く 海にまよふ かなしみどもよ いざよりて来よ

海明り 天にえ行かず 陸に来ず 闇のそこひに 青うふるへり

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