和歌と俳句

齋藤茂吉

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ひそかなる わが足音の きこえをり 道こほりつつ くもりくる山

ももくさの うら枯るるころ 山中は わが足もとの 蕨も枯れつ

あまつ雲 高山のうへに こごれるは 秋田あがたの 境なるべし

冬がれて すき透る山に くれなゐの 酸き木の実は 現身も食ふ

ひとつ居る 小鳥とおもひ よく聴けば くさぐさの鳥 ゐつつかなしき

しら埴の 山みぎはまで うねりたる 火口のみづは いまだ氷らず

久にして わが見しものか 山かげに 杉の落葉の おびただしきを

やうやくに 山に親しみて くだりゆく 白埴の道 こほりてありぬ

うすら氷の 張りし山路を たのしみて 岫のほとりに 歩みをとどむ

ひむがしへ 起伏せる山 きはまりて 宮城あがたの 国内ひくしも

山道は こほりてありぬ ときのまに 靴もて踏みつ 道の氷を

あしびきの 山の霰は たちまちに 落葉のうへに 音たてにけり

山道に 細くながれたる 水のあり 沈まむ砂は しづみ果てつつ

薄氷の すでに張りたる 山の道 ここを越ゆれば 潟沼へ行く

はれ透る 天のかなたに たけなはに 雪ふる山や 見え来るかも

みづうみの 岸にせまりて 硫黄ふく けむりの立つは 一ところならず

しげみより いできたりたる 浅流れ 落葉しづめて 氷りわたりぬ

ひとやまを 越えきてむかふ 冬がれの 襞あらき山に 雨ふらむとす

ひとところ 雲は乱りて はなれざる 高山を見む みちのくにして

白々と おきふす山は 湖の ひがしの方に つづきつつあり

家むらは 見えて居りつつ おちたぎつ 沢のみづおと 一ところ聞こゆ

鳴子より なほひむがしへ たたなはる 山をふりさけ こころ足らはむ