京の山を 東へ歌の 君やりて 身はしら梅に たそがれの人
誰ぞ誰が子 細江舟やる 一重ざくら 月の旅びと 恋なしにして
とある夕 画師のちからを 小指かみて のろひけむよの 秋ひろ野原
詩僧すむ 牡丹の寺の 春の客 玉瀾ならぬ 妻とかくれし
土しろう 落つる椿の ゆふづき夜 野はづれ寺に よき僧入りぬ
朝の戸の その子あまりに 口疾なりし 緋桃かしこく 日記いつはらぬ
具されびとの 一里は遠き 柳はら ながれ二すじ 月の春の夜
そがひ柱 わが名きみよぶ あまたたび 夕海棠よ かごとをしへむ
堀河や 築土しら壁 梅わかば 姉をはなだの 被衣に賜びし
姉の世に 二つをとりし 弟君の 歌のおほきを 泣かれぬる夏
宵の子は 頭巾ををしむ ゆひそめ髪 浪華の街の 南に長き
二条北に 大路の月の 今出川 梅は寒しと 倚りにし宵か
夏川は よき子が歌に こぎや馴れし 紅花つむ君が 里の夕舟
宵の歌は 君に負けたる もえぎ蚊帳 虞氏の朝ぎぬ 花あかき庭
浪華江の 後のひと夜は 梅にかれな ふた夜は歌の 吉備の若うど
北生駒 葛城たかき はかな雲 ひと夜の絵師を 東へやりし
影や紅に のこりあやぶむ 聖の壁 こなたしたまへ 眉ほそき君
花の山居 あやにく人の わかうして 鬢の油の うすし春雨
ここの水に 柳葉舟の ちさき思へ その夜を往きし 紅梅の神
才の君 恋に恥なき 髪五尺 歌につなぎて 敢てはなたじ