和歌と俳句

與謝野晶子

星川の流乾くと蝉鳴けば雨の降りくる上林かな

秋の水もの悩みして曇るなり信濃の渋の山あひに入り

皆白き雲の芙蓉を抱くなり渓の上なるをとどひの山

人々と霧をへだてて立つことも淋しき山の夕まぐれかな

八月の二十日の風に髪吹かる渋の奥なる傘岳のもと

山の雨もろこしを焼く煙立つ宿のひさしを蔑みて打つ

地獄谷濁れる水のみなもととすなり己れを人うたがはず

地獄谷湯のみなぎりて湧く時に澄む水をもて上無しとせず

秋風や千曲の川の船橋はたなごころほど中低くして

春の雪勧進帳の強力のごとあてやかに歩むものかな

春行くや白き雲よりうすいろの雲の淋しさ限りなきころ

椿をば炉として園の常磐木もさらぬ木立も冬籠りする

冬の海ヰ゛オロンの音のうちかすりいとめざましき潮煙立つ

たなぞこにめでたき春の片はしを置く心地する白き羽子かな

菜の花がところどころを巻絵してかつ淋しけれ葛飾の野は

白鳥が生みたるもののここちして朝夕めづる水仙の花

山の木の中に植ゑられ山羊めきぬ都築の岡のこすもすの花

何よりも江戸紫の龍胆の霜枯れたるは悲しかりけれ

錦木に萩も混れる下もみぢほのかに黄なる夕月夜かな

夕方は霜枯月の朝よりも雁など渡り若やかに暮る

磯山の雑木の紅葉顔寄せてかこち合ひたり日の隠るるを

はなやかに見ゆれど秋の落日はただ一重のみ紅を着る

雑木より薄の丈の立ちまさりその穂真白く靡く山かな

撫子やひがしの安房の海風に養はれ居ぬ霜月くれど

うち寄する波の白きは優れたる岩ぞと覚ゆ秋の荒磯

青墨の色を飽かずも重ねたり師走に近き那古の松原