一月の信濃の旅の明るけれ天がけるとも云はんばかりに
山の日は梓の川の流域の見えわたるまで全く昇りぬ
ありと見えやがて跡なくなりぬなり梓の川は遠方にして
雪国の温泉町のあけがたのうす墨色のなつかしきかな
連山の穂高と聞けるあたりよりほのかにしらむ朝ぼらけかな
安曇野の梓の川のひかること青玉に過ぐ一月にして
山の名をあまた知りたる宿主人現れつれば日も歩み寄る
蝶が嶽軽げに白し雪厚き穂高の峰のかたはらにして
信濃路をめぐれる山の半輪に雪かがやきて月に勝れり
西北のつばくら嶽に極れる山にくらべてひろき空かな
連山の雪にひかれてとどまればやがて浅間もうす雪ぞ降る
安曇野を雪早足に過ぎつれば雪とも見えずほの赤きかな
うす雪す上の浅間の湯のまちを横に抱ける赤松の山
朝よりかくれてありし常念の峰雲を出で友遠くきぬ
ひと列の蓼の穂のごと赤ばめる安曇平の日の出前かな
山風の急なるにしも追はれつつ筑摩を出でて伊那の野に入る
潮尻の南はなべてなつかしき朽葉のいろの上伊那郡
天龍の大河の芽をば見て過ぎぬ諏訪の岡谷の町のはづれに
こと成らぬみだれ心のおもむきに諏訪の湖氷せぬ冬
末弱る蓼科おろし旅人は吹けどポプラの靡かざるかな
百合摘むと友のいひつる上諏訪の御堂の山に小雪ちる朝
湖へ茅野と有賀を併せたる幅ある雲の下りてこしかな
駒が嶽乗鞍が嶽その中の遥かなるにもわれ寂しけれ
みづうみの声ききつけし夕闇の諏訪の湖畔の桑畑のみち
蓼料のいみじき雪をのぞくなり諏訪明神の廻廊の窓