和歌と俳句

若山牧水

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ふつとして 額あぐれば わが窓に 燃えてのぞめる 花柘榴花

見上ぐれば 窓いつぱいの 欅の木 椎の木の蔭の 花柘榴花

欅の木 椎の木の葉の しづもりの 蔭に燃えたる 花ざくろ花

見てあれば 見てあるほどに 柘榴花 くれなゐ燃えて 枝にそよがず

触れがたき ものにこそあれ 水無月の 曇りのかげに 咲ける柘榴花

汗もいま 湧きか止まらぬ 柘榴花 咲きみちて枝に 燃ゆるならずや

たましひよ 萎えしといふな 真夏日の ひかりのなかに 柘榴は咲けり

或時は ひつそりとして 葉がくれに 悲しめるごとき 花ざくろ花

日のひかり かげり来れば 枝枝の 柘榴の花は 揺れてそよげり

朝霧の やや晴れゆけば 夏の日の 青み輝き 銀杏は立てり

濃みどりの 銀杏の葉かげ こまごまと 朝日やどりて 風そよぐ見ゆ

すずめ子の 一羽とまりて 啼く見れば あをき細枝に 朝日さゆらぐ

窓漏れて あざやけきかな 七月の 青きひかりは われの机に

欅の葉 ほのかにゆれて 窓青み チャルメラの笛 とほく聞ゆる

とほき木に 蝉の鳴き入り ゆくりなく なり出でし時計 音のわびしも

枝の葉に やどり輝く 夏の日の ひかりかなしき この朝かな

をりをりに ひとみ上ぐれば 窓を掩ふ 欅の枝にまだ 朝のひかり

輝きて 睡眠は来る 午ちかみ 窓辺の木の葉 照り青みつつ

蚊帳のなかに 机持ち入れ もの書くと 夜を起きて居れば 蚊の声さびし

蚊帳に見ゆる 夜ふけの風の 冷たきに こころ覚め居れば 蚊のなく聞ゆ