和歌と俳句

若山牧水

妻が好む 花のとりどり いづれみな さびしからぬなき りんだうの花

からからと 黄葉鳴りつつ 低き木の われをめぐれる 野の日向かな

うららけき 冬野の宮の 石段の 段ごとに咲く りんだうの花

初冬の 野のうららけさ 来てみれば もみぢせぬ草も木もなかりけり

冬の野の 枯葉もみぢ葉 ながめつつ かきかがみ居れば さびしくぞなる

枯草の いろにまがへる 蝗ゐて をりをりとべり 初冬の野辺

斯くばかり 紅葉づるものと 知らざりし 木苺の葉を 摘めば枝さへ

めづらしき 木草たづぬる 植木屋の 爺とあひにけり 広き冬野に

楢櫟 わかき木どちの 黄葉して 押しひろごれり 此処のいただき

草枯れて 岩あらはれし 冬の野の いただきに居れば 鵯鳥の啼く

ひこばえの 楢の小枝に 実のなりて つぶつぶと見ゆ もみぢ葉のかげに

山窪に 酔ふばかりなる 日の照りて ひとりくるしき 冬日向かな

たそがれの いろの澄めるや とほ空の ひかりにならぶ 冬草の山

をちこちの 峰のとがりに うらさむく 夕日にほひて 秋霞せり

厨にて 焚ける杉の葉 板戸漏り 煙りきたりて 涙をさそふ

飲む湯にも 焚火のけむり 匂ひたる 山家の冬の 夕餉なりけり

早渓の 出水のあとの 瀬の底の 岩青白み 秋晴れにけり

古杉と 苗植ゑなめし わか山と ならびて晴れぬ 秋のよき日に

かぎろひて 見えもこそすれ 真ひなたに 傾き立てる 若杉の山

草山の まろき峰こそ つづきたれ 燃ゆるともなき 薄黄葉して