和歌と俳句

齋藤茂吉

12 13 14 15 16 17 18 19 20 21

飛行機の 飛ばざるこよひ つれだちて 雁のゆくこそ 寂しかりけれ

利根川を 幾むらがりに のぼりくる 鰻の子をぞ ともに養ふ

とし二つに なれるをさなご 著ぶくれて わがゐる前を 幾度にても走る

わが父を 永久におくりて みだれたる 心しづめむ 宵のひととき

しづかなる 死にもあるか いそがしき 劇しき一代 おもひいづるに

休みなき 一代のさまを 謔れに 労働蟻と いひしおもほゆ

働きて 一代を過ぎし わが父を ひたにぞおもふ 一家寄りつつ

しかすがに 子孫のために 買はざるは 美田のみと 豈おもはめや

あまてらし 豊榮のぼる 朝日子の 光のごとし わが大君は

ひんがしの 日の本つくに 統べたまふ わが大君は かしこきかろも

あまつ日継 しろしめすとぞ あきつ神 わが大君を あふぎまつらむ

高御座 高しりたまふ 大君は とよさかのぼる 光のごとし

十一月の 十日のいく日 國土を ゆるがしたてる よろこびのこゑ

あかねさす 日のもとつ國の 大君を 世はこぞりつつ ことほぎ讃ふ

國民の よろこぶこゑは 陸より わたつ海より 天つ空より

菊の花 咲きのさかりを 御民らは 園に集ひて ことほぎやまず

北のみ民 みなみのみ民 けふの生日 けふの足る日を 祝ぎたてまつる

高御座 のぼらせたまふ 吾大王 あふぐまつれば 尊くもあるか

ことさへぐ 西くにぶりの ともがらも ほぎたてまつる けふのいく日に

國こぞり ひとつごころに ことほぐや み空ゆるがし こゑこそひびけ

をとこをみな 老も若きも をさなごも 一つごころに ほぎまつるなり

大いなる 白菊の花 ひむがしの 聖王のくにの 白菊のはな

新世を しろしめし給ふ 大王の みまへににほふ 菊のたまはな

九重の 御園生にして あな尊と 黄菊白菊 咲きみてりけり