黒きもの すべてうとまし しかは云へ あげつらふには あらず蓮を
たまはるに 少なき心 たまさかの 御情にしも はぐくまれにし
毒草と をしへ給へど わが死なぬ あひだはいまだ そのあかしなし
春につぎ 夏くると云ふ いとまなさ くろ髪みだし 男とかたる
火のごとき あやふき中の たよりさへ つたへくるなる あそろしき人
さ云へわれ 学ぶところを あやまりて こしやからとは おもむきたがふ
隣り住む 南蛮寺の 鐘の音に 涙のおつる 春の夕暮
人の世に またなしと云ふ そこばくの 時の中なる 君とおのれと
たとへなば さしひきもなき みち潮の 上にのどかに 君はある船
おん経の 中にかぞへし 七宝の 上にくらゐす わが見つる君
君が名は かかはり知らぬ ことどもの 中にまじりて 美くしかりき
たれやらに 通ひ行くてふ いと怪しき 君が御履を 釘づけてまし
いにしへの 和泉式部に ものいひし 加茂の祝は われを見知らず
頂に ありあけ月の 残りたる いとほのかなる 嵐山かな
かしこくも 飢をしのびし 少女とも ほめられずして おとろへを賜ぶ
行水の うしろふくとき はらはらと かひなにちりし 柿の花かな
うす紅の 隋円の貝を 七つ八つ てのひらにのせ ものを思へる
君きぬと 五つの指に たくはへし とんぼはなちし 秋の夕ぐれ
ほのかにも かねて心に ありし絵の もの云ひにこし 夜とおもひぬ
ふと飽かば ふと別れむと たはぶれの やうにもあらず 云ひし君ゆゑ