和歌と俳句

與謝野晶子

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せせらぎに 河鹿が鳴けば 石も鳴く おなじやうにも 土くれの鳴く

わが昼の 風呂桶に来て 蝶ひとつ 眠る悲しさ 秋のかなしさ

思ふ子は 蔓鍋さげて 父よびぬ 霧の入りくる 夕がれひ時

灯のかげに まみの濡れたる 人の居ぬ あねもねの花 にほふ如くに

彼に逢ひ これ見に来むと 二かたの 心をとるは 苦しきものぞ

獅子王に 君はほまれを ひとしくす よろこぶ時も 悲む時も

わがよはひ 盛りになれど いまだかの 源氏の君の とひまさぬかな

十日ほど しか思へりと すこやかに 云ふ人ながら 涙ながせり

わりなくも われはまことに 疎まると はなはだしげに 云へば慰む

わが前に ありとし思ふ 水いろの 幕をうごかす 秋の風かな

いとあはれに 改り行く 人の親の 心をわれも 知る日となりぬ

初夏や よきこと語り 若き人 ひと日寝くらす たちばなの花

湖に 川のそそぐや 否あらず 君が心の われにおちくる

春の夜は 明方近く なりにけり 浅川の水 しろがねをのぶ

恋すれば かりそめ言も 憎からず 空だきのごと 身にしむものを

すさまじき ものの中にも 入れつべき 恋ざめ男 恋ざめ女

秋風は 男の恋の 如くにも 軽くも聞え おもおもと吹く

土の落ち 破れし瓦は また欠けぬ なほも然らむ 明日に明後日

ほととぎす 石竹色の とばりより くろ髪の子の いづる暁方

ひとり居て 夜の籐椅子の かなしきは おほよそごとの 忘られぬため