京少女 君はそれらの こと云ふに 涙をすこし うちおとしつつ
西の京 大阪かけて はしきやし 吉井勇の あそぶ初夏
わが椅子の 前にもて来ず とこしへに 仕うまつると 云ふしるしをば
三味線の 糸より細き 雨ふると 繻子の外の 消息を聞く
唯ひとつ 青かづら這ふ 石のごと かつらぎ山は ありぬ月夜に
入海の 引潮どきに 聴きなれし あなづらはしき 波の音かな
そそのかし 日のくれ方に 君引きし ひと間の中の ひなげしの花
何ごとか 泣寝に人は 臥しくらし あかずもわれの いとほしき頃
誰そやそも 七とせの前 三とせ前 ときどき死ぬる ばかり妬むは
兄たちは 林走ると 木叩くと 薄にかたる 風のわらわら
つり鐘の 音に交りて ちやとひびく 足なへ殿に わがまゐる銭
人まへに われら面の 色かはる わづらはしさは なき日となりぬ
わが二十 初瀬の御寺の ゆく春の 石だたみ踏み ものを思へる
それぞれに 五つの指の 動くごと 人ら船漕ぎ 朝の海行く
秋の日の だりやの花の 中を来て ひと時あまり たたむきに寝し
藍がちの むらさき色の 夕ごろも 車より出づ 口づけてのち
不可思議は 君が二つに 分つ恋 われかたはしも 欠かであること
たちまちに 身も世もあらぬ 悲しさを わが来し方に 見いづる心
頬あかめて 君が炭櫃の 火を吹ける 息に似たらむ 春風を待つ
まろ鏡 紫銅のふちの 中にある なでしこの花 風にそよげる