今しいま 年の来ると ひむがしの 八百うづ潮に 茜かがよふ
高ひかる 日の母を戀ひ 地の廻り 廻り極まりて 天新たなり
東海に おのごろ生れて いく継ぎの 眞日美はしく 天明けにけり
ひむがしの 朱の八重ぐもゆ 斑駒に 乗りて来らしも 年の若子は
にひとしの 眞日のうるはし くれなゐを 高きに上り 目蔭して見つ
新装ふ 日の大神の 清明目を 見まくと集ふ 現しもろもろ
天明り 年のきたると くだかけの 長鳴鳥が みな鳴けるかも
しだり尾の かけの雄鳥が 鳴く聲の 野に遠音して 年明けにけり
ひむがしの 空押し晴るし 守らへる 大和島根に 春立てるかも
うるはしと 思ふ子ゆゑに 命欲り 夢のうつらと 年明けにけり
沖つとり かもかもせむと 初春に こころ問して 見まくたぬしも
おほきみの 大城の森の 濃緑の いやとことはに 年ほぐらしも
豊酒の 屠蘇に吾ゑへば 鬼子ども 皆死しにけり 赤き青きも
くれなゐの 梅はよろしも あらたまの 年の始に 見ればよろしも
あかときの 畑の土の うるほひに 散れる桐の花 ふみて来にけり
青桐の しみみ廣葉の 葉かげより ゆふべの色は ひろごるらしき
ひむがしの ともしび二つ この宵も 相寄らなくて ふけわたるかな
うつそみの この世のくにに 春さりて 山焼くるかも 天の足夜を
ひさかたの 天の赤瓊の にほひなし 遙けきかもよ 山焼くる火は
うつし世は 一夏に入りて 吾がこもる 室の畳に 蟻を見しかな
眞夏日の 雲のみね天の ひと方に 夕退きにつつ かがやきにけり
荒磯ねに 八重寄る波の みだれたち いたぶる中の 寂しさ思ふ
秋の夜の 灯しづかに 揺るる時 しみじみわれは 耳かきにけり
ほそほそと こほろぎ鳴くに 壁にもたれ 膝に手を組む 秋の夜かも
旅ゆくと 泉に下りて 冷々に 我が口そそぐ 月くさの花