男はみな 額に桂を もとふ国の むかし語の 恋にかあるべし
ゆきずりの 丁子ゆかしや あけがたの 夢に見に来む 山下小家
あゝ驕り 高華なる人に やどる思 むねに溢るる 我と見けらし
智慧よ疾く 汝はほろびし 世をうせし 挽歌に誇る 我ならなくに
その胸よ 春の香しみし わがいのち 宝とするに せまかりけらし
ふりかかる 鬢の風情は 汝も見つや 鸚鵡病みては 我に似る瞳
祝ひたまへ 少女が春の 価おほし わかるる期ある 人の名秘むる
解し得では 玉なるかひな かなしみし 髪長うては 名を惜みにし
さびしみに 木蓮おつと すがりにし 山居の暮も 恋ふる日あらむ
笑みなきは 梭うた胸に みたざるや 脊戸の緋桃が かしづきの君
今日しらず 子は天雲の ともなひと 牲にはをしき 老の母見し
髪つれなき 鏡に今日を 思ひ知るは 霊たふとばぬ 心にあらじか
占あしと 相思の君に わがかけし よしなき涙 わすれ給はじ
ひんがしに 君ある国を 忘れ得ば はたやわが歌 神を喚ばまし
したしむは 定家が撰りし 歌の御代 式子の内親王は 古りしおん姉
こしかたや われおのづから 額くだる 謂はばこの恋 巨人のすがた
歌なきは われあめつちに 君を得て 恋を恋ひしに あらざる故か
天にてか 今宵のごとき 夜にぞ見し みにくき神の 衣に似る雲
牡丹こそ 尺にさかずも ありぬべし 聖旨うけては 力をわぶる
恋するに 持つも要なき つよき力 すてて桂の 根をこやせまし