やはらぎの 長きに栖みて 世を知らず 悲曲ひと巻 いつはり拙な
眼のかぎり 春の雲わく 殿の燭 およそ百人 牡丹に似たり
ふたたび無き 少女の春は 何と説く 恋を二様に かたり得る君
柳ごしに 見るは山はふ 大文字 洛中出ては 妻とこそ添へ
白虹の 秋の日をさす 眼は父に 春のうれひの 母おびし顔
わが額に 冠よそふ 君とこそ たのむ雄姿 老にやりますな
春野夏野 われと御座は えらび給へ 芸匠わかうて 鑿あらき神
よきひとの 三十路にのこす ふたとせは 荊棘がもてる 千とせなるべし
をしへ給へ 永劫笑まぬ 君かとぞ 問ひなば石は ためらふまじか
春の神の まな児うぐひす 嫁ぎくると 黄金扉つくる 連翹の花
をとめなれば 姿は羞ぢて 君による 霊は天ゆく 日もありぬべし
変りあらむ 君かや身かや 人の世に しばしば春は 来てもうつろへ
ひとつ身を われのみ罪に 召すものか 御意か聖旨か 今日かれし才
兄が世は 御室の宮の 御弟子僧都 扇折る子に やまぶき咲きぬ
ためさむは わがものほふ 力とや 憂きぞいよいよ 新たなれ春
帝を傷め 鳥の孔雀よ 世にひとつ われとも汝とも よそへにし君
『うたがひ』は この世の春の うたびとを 「神に懈る奴僕」と過ぎぬ
あめつちの 恋は御歌に かたどられ 完たかるべく さゆり花さく
ほこりては ひろふにをゆび ためらひし 玉とは人を ああ見てしかど
緋芍薬 さします毒を うけしより 友のうらやむ 花となりにき
あやしむな われと火焔に やかれては 姿ぞほそき ひと重芍薬
恋しては 王者をよぶに 力わびず 龍馬きたると 春のかぜ聴く