我がうしろ 影ひくごとし 街を過ぎ ひとり入りゆく 秋植物園
植物園の 秋の落葉の わびしさよ めづらしくわが 静かなること
ふるさとの 南の国の 植物が 見ゆるぞよ秋の 温室の戸に
うなだれて 歩むまじいぞ 桜落葉 うす日にひかり はらはらと散る
あぢきなく 家路のかたへ 向きかふる 夜霧の街の わがすがたかな
其処に在り 彼処にみえし わがすがた さびしや夜の 街に霧降る
ねがひしは この静けさか 今朝の わがこころのすがた 落葉に似たり
秋かぜや 日本の国の 稲の穂の 酒のあぢはひ 日にまさり来れ
心のうへ 狭霧みな散れ あきらかに 秋の日光に 親しましめよ
眼をあげよ もの思ふなかれ 秋ぞ立つ いざみづからを 新しくせよ
動物園の けものの匂ひ するなかを 歩むわが背の 秋の日かげよ
秋の入り日、猿がわれへばわれ笑ふ、となりの知らぬひともわらへる
秋の日の 動物園を 去らむとし かろき眩暈を おぼえぬるかな
停車場に 入りゆくときの 静かなるこころよ 眼にうつる人のなつかし
帰りきて まちを手さぐり 灯をともす その灯をともす、うれしや独り
ひとり寝の 夜のねまきに かふるとて ほそき帯をば わが結ぶかな
わが寝ざめ、こころかなしく かきくもり いためる蔭に こほろぎの啼く
常磐木の 蔭には行かじ、秋の地の その樹のかげの なにぞ憎きや
眼馴れたる この樹四時に 落葉せず 黒き実ぞなる、秋風立てば
かなしくも 我を忘れて よろこぶや 見よ野分こそ 樹に流れたれ