とほどほし 南ひらけて 冬山の 蔵王につづく 白き団塊
足元の 雪にまどかなる 月照れば 靑ぎる光 ふみてかへるも
横ざまに ふぶける雪を かへりみむ いとまもあらず 橋をわたりつ
けふ一日 雪のはれたる しづかさに 小さくなりて 日が山に入る
雪ごもる 吾のごときを おびやかす 世のありさまも 常ならなくに
雪はれし 厚きくもりは 天なるや 八隅の奥に しづまむとする
両岸は 白く雪つみ 最上川 中瀬のひびき ひくくなりつも
雪はれて 西日さしたる 最上川 くろびかりするを しばしだに見む
雪雲の 山を離れて ゆくなべに 最上川より 直に虹たつ
最上川の ながれの上に 冬虹の たてるを見れば 春は来むかふ
せまりくる 寒きがなかに 春たたむとして 山上の雪 けむりをあげぬ
最上川 にごりみなぎる いきほひを まぼろしに見て 冬ごもりけり
終戦のち 一年を過ぎ 世をおそる 生きながらへて 死をもおそるる
つつましき ものにもあるか けむるごと 最上川に降る 三月のあめ
最上川 ながれの岸に 黒どりの 鴉は啼きて はや春は来む
最上川 雪を浮ぶる きびしさを 来りて見たり きさらぎなれば
東京に 見るべからざる 雪山を まなかひにして 老いつつぞゐる
山の中ゆ いで来し小雀 飛ばしめて 雪の上に降る きさらぎの雨
桂樹の 秀枝に来り 鳴きそめし 椋鳥ふたつ 春呼ぶらしも
かたむきし 冬の光を 受けむとす 蔵王の山を 離れたる雲
遠き過去に なりし心地す をさな等も たたかひ遊 することがなく
とほがすみ 國の平に かかるころ 吾を照らして 陽の道をゆく
白き陽は いまだかしこに あるらしく みだれ降りたる 雪やまむとす
なげかひを 今夜はやめむ 最上川の 石といへども 常ならなくに