和歌と俳句

齋藤茂吉

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最上川に 住むうろくづも しろじろと 雪ふるときは いかにかもあらむ

しも河原に 薔薇の實あかく なるころを 幾たび吾は もとほりけむか

馬橇も 通らずなりて 雪ふぶく 大石田町を またも見がほし

戦犯の 宣告ありし けふのよる ひとり寐れば 言の葉もなし

春山に入り百どりのこゑ聞けば よみがへりこむ 心とぞおもふ

とし老いし この翁さへ 歩み得る 銀座街のひる 銀座街のよる

獨占を してはならぬと いふごとく 桃割のをとめ ここに一人立つ

過去の世を うちたち切りて 行かむとす この街上に 悲痛ひとつ無く

むく鳥の おどおどし居る さまを見て 樂しと言はば 其時代善けむ

運勢は かりそめならず わが國の この新なる 時にあたりて

みちのくの 山より来たり 椋鳥が 一こゑ鳴きて いざかへりなむ

み苑生は 疾風ふきすぎ わが大きみ 秋の光に もとほりたまふ

病む人を みとる心は ぬばたまの やみにさしくる 光なるべし

しも月の 半ばとならば 勅封の かしこき音を 人忘れざらむ