和歌と俳句

拾遺和歌集

恋一

人麿
おく山のいはかきぬまのみこもりにこひや渡らんあふよしをなみ

寛祐法師
あまた見しとよの禊のもろ人の君しも物を思はするかな

よみ人しらず
玉すだれ糸のたえまに人を見てすける心は思ひかけてき

よみ人しらず
玉だれのすける心と見てしよりつらしてふ事かけぬ日はなし

よみ人しらず
我こそや見ぬ人こふる病すれあふ日ならではやむくすりなし

よみ人しらず
玉江こぐ菰刈り舟のさしはへて浪間もあらばよらむとぞ思ふ

よみ人しらず
みるめ刈るあまとはなしに君こふるわが衣手のかわく時なき

人麿
み熊野の浦の浜木綿ももへなる心はおもへどただにあはぬかも

貫之
朝な朝なけづればつもる落ち髪の乱れて物を思ふころかな

藤原実方朝臣
わがためはたなゐの清水ぬるけれど猶かきやらむさては澄むやと

返し よみ人しらず
かきやらば濁りこそせめ浅き瀬のみくづは誰か澄ませても見む

よみ人しらず
ひとしれぬ心の内を見せたらば今までつらき人はあらじな

小野宮太政大臣実頼
人しれぬ思ひは年もへにけれど我のみ知るはかひなかりけり

よみ人しらず
ひとしれぬ涙に袖は朽ちにけりあふよもあらばなににつつまむ

返し よみ人しらず
君はただ袖ばかりをやくたすらん逢ふには身をもかふとこそきけ

よみ人しらず
ひとしれず落つる涙は津の国のなかすと見えて袖ぞくちぬる

よみ人しらず
恋といへば同じ名にこそ思ふらめいかでわが身を人にしらせん

中納言朝忠
あふ事のたえてしなくばなかなかに人をも身をも怨みざらまし

兼盛
逢ふ事はかたゐざりするみどり児の立たむ月にも逢はじとやする

よみ人しらず
あふことを月日にそへてまつ時はけふ行末になりねとぞ思ふ