和歌と俳句

拾遺和歌集

恋一

よみ人しらず
おとにのみ聞きつる恋を人知れずつれなき人にならひぬるかな

よみ人しらず
いかにせむ命はかぎりあるものを恋は忘れず人はつれなし

よみ人しらず
山びこもこたへぬ山のよぶこどり我ひとりのみなきやわたらむ

よみ人しらず
やまびこは君にも似たる心かなわがこゑせねばおとづれもせず

よみ人しらず
あしひきの山下とよみ行く水の時ぞともなくこひ渡るかな

よみ人しらず
いかにしてしばし忘れん命だにあらば逢ふよのありもこそすれ

よみ人しらず
ぬきみだる涙の玉もとまるやと玉の緒ばかりあはむといはなん

よみ人しらず
いはのうへに生ふる小松も引きつれど猶ねがたきは君にそありける

よみ人しらず
たなばたも逢ふよありけり天の河この渡にはわたるせもなし

九條右大臣師輔
さはにのみ年は経ぬれど葦鶴の心は雲の上にのみこそ

よみ人しらず
大空は曇らざりけり神無月時雨ここちは我のみぞする

よみ人しらず
しのぶれど猶しひてこそおもほゆれ恋といふ物の身をしさらねば

よみ人しらず
哀れとも思はじものを白雪の下に消えつつ猶も降るかな

返し 中務
ほどもなく消えぬる雪はかひもなし身をつみてこそ哀れと思はめ

よみ人しらず
よそながらあひ見ぬほどに恋ひ死なば何にかへたる命とかいはむ

よみ人しらず
いつとてかわが恋やまむちはやふる浅間の嶽の煙たゆとも

一條摂政伊尹
大原の神も知るらむわが恋はけふ氏人の心やらなむ

返し よみ人しらず
榊葉の春さす枝のあまたあれば咎むる神もあらじとぞおもふ

よみ人しらず
あめつちの神ぞ知るらん君がため思ふ心のかぎりなければ

よみ人しらず
海もあさし山もほどなしわが恋をなにによそへて君にいはまし