和歌と俳句

拾遺和歌集

恋一

よみ人しらず
逢ふことをいつとも知らで君がいはむ常盤の山の松ぞくるしき

よみ人しらず
命をば逢ふにかふとか聞きしかど我やためしに逢はぬ死にせん

貫之
行く末はつひに過ぎつつ逢ふことの年月なきぞわびしかりける

よみ人しらず
生きたれば恋することの苦しきを猶いのちをば逢ふにかへてん

大伴百世
恋ひ死なむ後はなにせん生ける日のためこそ人の見まくほしけれ

源経基
あはれとし君だにいはば恋ひわびて死なん命も惜しからなくに

よみ人しらず
人知れず思ふ心をとどめつつ幾たび君が宿を過ぐらん

よみ人しらず
しぐれにも雨にもあらで君こふる年のふるにも袖は濡れけり

菅原輔昭
露ばかり頼めし程の過ぎ行けば消えぬばかりの心地こそすれ

返し よみ人しらず
露ばかり頼むることもなきものをあやしや何に思ひおきけん

よみ人しらず
流れてと頼むるよりは山河の恋ひしき瀬々に渡りやはせぬ

よみ人しらず
あひ見ては死にせぬ身とぞなりぬべき頼むるにだに延ぶる命は

よみ人しらず
いかでかと思ふ心のある時はおぼめくさへぞ嬉しかりける

よみ人しらず
わびつつも昨日ばかりは過ぐしてき今日や我が身の限りなるらん

人麿
恋ひつつも今日くらしつ霞立つ明日の春日をいかでくらさん

人麿
恋ひつつも今日はありなん玉くしげ明けんあしたをいかでくらさむ

よみ人しらず
君をのみ思ひかけこの玉くしけ明けたつごとに恋ひぬ日はなし