和歌と俳句

若山牧水

15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25

誰か来よ こよひさびしと 下思ふ この冬の夜の 心さわぎよ

しみじみと 逢ひたしとおもふ 友だちの 減りゆきしこと 今宵おもはる

蓄音機 たかだか聞ゆ 凍みこほり こよひ寒きに となりの家に

疲れ果て 眠りかねつつ 夜半に飲む このウヰスキイは 鼻を焼くなり

今年住む わが家は岡の うへにありて いま冬景色 うららけく見ゆ

霜日和 わが二階より 見はるかす ひろきにぞ見ゆ 豊島が岡は

わが部屋の はしに居寄れば 冬空の ふかきに沈み 遠き富士見ゆ

隣家なる 椎の老樹の うらがれて いささか隠す その富士が嶺を

窓に見る 景色あらはに 冬寂びて ただありがたき 日のひかりかな

しめきりし 雨戸の節を ぬけてさす 冬日真赤し こがらし募り

家をゆすり 吹くこがらしの をちかたに 啼く鵯鳥の 声みだれけり

夜のほどに 降りつもりたる 白雪の 今朝をまぢかく 鶫来て啼く

英吉利の 勝ちさけびつつ 独逸人 負けさけびつつ たたかひ終る

初なく をはりなきに似たり 遠つ国辺の たたかひ終ると いふはまことか

五年ごし 永きにわたり 戦ひし たたかひのむねを 明らかにせよ

勝つといひ まけたりといふ とりどりの 唐人の声 はるかに聞ゆ

たたかひの 一途なりしを 勝鬨の いまとりどりに 乱れたり聞ゆ

たたかひの 終れるあとに 這ひまはる 虫けだものを 追ひ払へ神