和歌と俳句

若山牧水

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幾年か 見ざりし草の 石菖の 青み茂れり 此処の渓間に

向つ峰の 杉山の根に かかりたる 岩かげの滝は 氷りたり見ゆ

霜どけの 崖ゆ落ち来る さざれ石の さびしき音は 道に続けり

土壊を ふせぐと植ゑし 天城越の 道の榛の木 みな実を持てり

九十九折 登ればいよよ 遥けくて 麓の小渓 ながめ見飽かぬ

天城道 三椏畑の 側ゆけば その花にほふ 雪に濡れつつ

道下の 三椏畑は いちめんに さびしき花の いま盛りなり

冬過ぐと すがれ伏したる 萱原に 雪は真しろく 降り積りをり

見下せば 八十渓に生ふる 鉾杉の 秀並が列に 雪は降りつつ

天城山 わが越ゆる道の 杉の木に 降り積る雪は 枝垂れそめたり

立ちどまる わが身真白し 見かへれば 降る雪暗く 山をつつみ降る

天城嶺の 森を深みか うす暗く 降りつよむ雪の 積めど音せぬ

道の上に 積みゆく雪を ながめつつ 今は急ぎぬ 峠間近を

降る雪の 天過ぎゆけば わが越ゆる 岨の雪道 明るみきたる

かけわたす 杣人がかけ橋 向つ峰の 雪積む岨に 続きたる見ゆ

窓さきの 樫に来て啼く 樫鳥の 口篭り声は われを呼ぶごとし

樫の実の 落ちちらばれる 渓端の 苔あをきところ 樫の根は張る

根もとより 枝しじに分れ 茂り生ふる 老木柊の 花は真さかり

山中の 温泉に来り 静けしと こころゆるめば 思ふ事おほし