和歌と俳句

若山牧水

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なびきあひ くだけてひろき 夕凪の 九十九里が浜の 浪のましろさ

ながながと 真澄みとよもせり 夕凪の 九十九里が浜の 沖のうねりは

秋がすみ 四方をこめゐて 夕凪の 沖辺より来る 風のすずしさ

夕月の ひかりとぼしみ 九十九里の 空ひくきところ 星しげく居る

夜出でて 浜に立てれば 九十九里の 浪のとどろき 四方にあがれり

くれなゐの 大き真珠と さしのぼり 日はかかりたり 沖の狭霧に

雨雲の かきくだり来て 九十九里の 海のまなかに 集ふとすらし

なかぞらに 這ひわたりたる 大蟹の 真くろ雨雲 海をおほへり

いなづまの 射しかはしつつ あぶらなす 真闇の浜に 浪ひくく立てり

落葉松は なほ散りやまず 散りつもり 落葉色なす その根の地に

落葉松の 林にまじり 生ひいでて 白樺はわかし ただに真しろく

白樺の 若木たちまじり 渓ぞひの から松林 冬寂びにけり

朝時雨 いつしか晴れて 墨いろの 浅間の嶺に つめる雪みゆ

おほかたの 木の葉散りすぎ 静かなる 冬は来にけり 眼にもあらはに

散り尽きて いまはまつたく 枯木なす 桜木立に 馴れてたのしき

このあたり 人もゐぬげに 静かなる 家居つづきて 冬木立せり

この一年 何かは知らず うち疲れ なまけつつ居りて 冬に入るなり