和歌と俳句

若山牧水

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たまたまに ひとつ出てをる 冬ざれの 岩間の魚を すがしくぞ見し

をちかたに 鵯の声起り わが歩む 冬田の畔に 杉ならびたり

新しき 土つみあげし 埋立の 工事のそばに 冬木はあらは

田の畔の 茶の木ばたけの だんだんに つらなり光る 寒き日射は

墓原の かなめの若芽 くれなゐに 杉垣つづき 伸びそろひたり

おのがじし 静かに立てる 冬枯の 丘の杉の木 葉は赤らめり

そことなき 心おごりぞ 湧き来る この冬晴の 静けきなかに

一つかみ 投げざしにせる フリジヤの 青き葉の蔭に 蕾は多し

いそがしき われの机の すみに置かれ 咲きてひさしき フリジヤの花

挿しすてて 月のなかばも 過ぎたらむ フリジヤの花に 塵はかかれり

フリジヤの 花いつしかに 褪せそめて いよいよ匂ふ 机の隅に

この部屋の 窓の障子の 新しく なかばあきゐて 梅の花見ゆ

門出づと 傘ひらきつつ 大雨の 音しげきなかに 梅の花見つ

泥濘の 道に立ち出で 大雨に 傘かたむけて 梅の花見つ

見送ると 門に出で来し 妻を呼びて 雨のなかの梅 うち讃へ見つ

枝伸びし 若木の梅の 花びらに 降りそそぐ雨は 音たててをる

枝のさき 入りかひみだれ 大雨に 雫たれつつ 梅の花咲けり

わが門の 前の坂道 ぬかるみに 川なして流る 今朝ぬくき雨は

わがこころ 澄みてすがすがし 三月の この大雨の なかを歩みつつ