齋藤茂吉

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あをあをと 水草の生ふる 流あり 湯ずゑのけむり ここに消につつ

高原に 光のごとく 鶯の むらがり鳴くは たのしかりけり

妙高の 山路を来れば 土くろし みぎりひだりに 蕨もえつつ

山草の 高きしげりに 暗がりし 草うごかして 水はいきほふ

黒姫の 山の奥がに 戸隠や 雪のはだれは 見れど飽かぬかも

もえいでて 未だやはらかく 広き葉も 細葉もなべて ひるがへりけり

汗ばみて 高原のみち 来しかども 杉の下生の 風は寒しも

深襞も 青くなりつつ 消のこれる 妙高のやまの 雪ちかく見ゆ

あまつ日に 透きとほりたる 楢の葉の 間なくしうごく 山をわれ行く

朝雲は 疾くうごきて 山襞の ふかきに残る 雪見えわたる

黒姫の 山の原より ふりさくる 越後の山に 雪消えにけり

吾の如く 細谷がくり おりくれば この清きみづ 人は飲むらむ

山のべに くれなゐ深き 白頭翁 ほほけしものは 毛になりにけり

常陰の 山といはなくに おきなぐさ はつはつふふむ 寒きにやあらむ

春の火に 燃えたるあとを 登りをり 黒々として 生けるもの見ず

妙高の あらき谿より 幾すぢも 雪解の水は ながれたるらし

友とふたり 言も絶えつつ 妙高の 山原焼けし あとのぼりゆく

妙高の なだれに見れば 信濃なる 群山かげに 雲そきにけり

妙高の 山はいつしか 片寄りに 裾野てらして 日は落ちむとす

あまつ光 かたむくころは 黒姫の 山襞ふかき かげをつくりぬ

こしのくに 妙高の山 すがしみと ふたりは居りき 日の落つるまで

和歌と俳句