小林一茶
門々の下駄の泥より春立ちぬ
老が身のねぶみをさるるけさの春
家なしも江戸の元日したりけり
花びらに舌打したる 蛙哉
藪の梅主なし状のさらさるる
蝶とんで我身も塵のたぐひ哉
雪どけや巣鴨辺りのうす月夜
浅草や家尻の不二も鳴雲雀
鳴雲雀水の心もすみきりぬ
雪どけをはやして行や外郎売
片隅に烏かたまる雪げかな
春雨や魚追い迯す浦の犬
薮入や墓の松風うしろ吹
ちる花や已におのれも下り坂
花さくや欲のうき世の片隅に
夕ざくらけふも昔に成にけり
よるとしや桜のさくも小うるさき
春の日のつるつる辷る樒かな
むさい家との給ふやうな 雛哉
斯う活て居るも不思議ぞ花の陰
いざさらばさらばと厂のきげん哉
散桜肌着の汗を吹せけり