網代守大根盗をとがめけり
蜑のかるかぶ菜おかしやみるめなき
蕪汁や霜のふりはも今朝は又
おほふ哉さまさぬ袖を納豆汁
万代の〆をあけけり神楽帳
夜神楽や鼻息白し面の内
誰と誰が縁組済で里神楽
蟷螂の尋常に死ぬ枯野哉
河豚あらふ水のにごりや下河原
河豚汁に叉本艸の咄哉
鮟鱇をふりさけ見れば厨かな
蠣むきや我には見えぬ水鏡
憎まれてながらふる人冬の蠅
炭屑にいやしからざる木のはかな
君と我炉に手をかへすしかなかれ
起き出て事しげき身や足袋頭巾
いそがしや足袋売に逢ううつの山
紙子きて渡る瀬もあり大井川
寝こころや火燵蒲団のさめぬ内
逢にかかる命や勢田の霜
山犬を馬が嗅ぎ出す霜夜かな
冬川や筏のすはる草の原
何となく冬夜隣をきかれけり
この木戸や鎖のさされて冬の月
鼻を払く孔雀の玉や煤ごもり
暁のつくはたつたや寒念仏
寒菊や古風ののこる硯箱
豆をうつ声のうちなる笑かな