源経基
雲井なる人を遥に思ふにはわが心さへそらにこそなれ
人麿
よそにありて雲ゐに見ゆる妹が家に早くいたらむあゆめ黒駒
よみ人しらず
わがかへるみちの黒駒こころあらば君は来ずともおのれいななけ
右大将道綱母
歎きつつひとりぬる夜のあくるまはいかにひさしき物とかはしる
よみ人しらず
なげきこる 人いる山の をののえの ほどほどしくも なりにけるかな
よみ人しらず
ひとにだに知らせでいりし奥山に恋しさいかでたづねきつらん
くにもち
影たえておぼつかなさのますかがみ見ずはわが身のうさもしられじ
よみ人しらず
思ひます人しなければますかがみうつれる影とねをのみぞなく
よみ人しらず
わが袖の濡るるを人のとがめずはねをだにやすくなくべきものを
こまの命婦
數ならぬ 身はただにだに 思ほえで いかにせよとか ながめらるらん
よみ人しらず
夢にさへ 人のつれなく 見えつれば ねてもさめても ものをこそおもへ
よみ人しらず
見る夢の うつつになるは 世のつねぞ うつつのゆめに なるぞかなしき
よみ人しらず
逢ふことは 夢の中にも うれしくて ねさめの恋ぞ わびしかりける
よみ人しらず
忘れじよ ゆめと契りし 言の葉は うつつにつらき 心なりけり
よみ人しらず
あたらしと 何にいのちを 思ひけん 忘ればふるく なりぬべき身を
人麿
ちはやふる 神のいかきも 越えぬべし 今はわが身の をしけくもなし