和歌と俳句

拾遺和歌集

雑歌

よみ人しらず
なのみしてなれるも見えず梅津河ゐせきの水ももれはなりけり

よみ人しらず
名にはいへどくろくも見えずうるし河さすがに渡る水はぬるめり

恵慶法師
世の中にあやしき物は雨ふれと大原河のひるにぞありける

藤原仲文
河柳いとはみどりにあるものをいづれかあけの衣なるらん

村上院 御製
しら浪の打ちやかへすとまつほどに浜の真砂の数ぞつもれる

小野宮太政大臣実頼
いつしかとあけて見たれば浜千鳥跡あるごとにあとのなきかな

返し 馬内侍右大将実資
とどめてもなににかはせん浜千鳥ふりぬるあとは浪にきえつつ

よみ人しらず
水底のわくばかりにやくぐるらんよる人もなき滝の白糸

よみ人しらず
音にきくつづみの滝をうち見ればただ山河のなるにぞありける

三位国章
おとにきくこまのわたりの瓜つくりとなりかくなりなる心かな

返し 大納言朝光
さだめなくなるなる瓜のつら見てもたちやよりこむこまのすきもの

兼盛
みちのくの安達の原の黒塚に鬼こもれりときくはまことか

藤原為順
ぬす人のたつたの山に入りにけりおなじかざしの名にやけがれん

藤原為順
なき名のみたつたの山のふもとには世にもあらしの風もふかなん

八条のおほいきみ
なき名のみたかをの山といひたつる君はあたごの峯にやあるらん

元輔
いにしへものぼりやしけん吉野山やまよりたかきよはひなる人

よみ人しらず
老いはてて雪の山をばいただけどしもと見るにぞ身はひえにける

旋頭歌 よみ人しらず
ますかがみそこなるかげにむかひゐて 見る時にこそしらぬおきなにあふ心地すれ

旋頭歌 人麿
ますかがみ見しかと思ふいもにあはむかも 玉の緒のたえたるこひのしげきこのごろ

旋頭歌 人麿
かのをかに草かるをのこしかなかりそ ありつつも君がきまさむみまくさにせん

源景明
梓弓おもはずにしていりにしをさもねたくひきとどめてぞふすべかりける