和歌と俳句

拾遺和歌集

雑歌

貫之
春秋に思ひみだれてわきかねつ時につけつつうつる心は

承香殿のとしこ
おほかたの秋に心はよせしかとど見る時はいづれともなし

よみ人しらず
春はただ花のひとへに咲くばかり物のあはれは秋ぞまされる

大納言朝光
折からにいづれともなき鳥のねもいかがさだめむ時ならぬ身は

伊衡
白露はうへよりおくをいかなれば萩のしたはのまづもみづらん

躬恒
さをしかのしがらみふする秋萩はしたはやうへになりかへるらん

忠岑
秋萩はまづさすえよりうつろふを露のわくとは思はざらなむ

伊衡
ちとせふる松のしたはの色づくはたかしたかみにかけてかへすぞ

躬恒
松といへどちとせの秋にあひくればしのびにおつるしたはなりけり

伊衡
白妙のしろき月をも紅の色をもなどかあかしといふらん

躬恒
昔よりいひしきにける事なれば我らはいかが今はさだめん

伊衡
かげ見れば光なきをも衣ぬふ糸をもなどかよるといふらん

躬恒
うばたまの夜はこひしき人にあひて糸をもよれはあふとやは見ぬ

伊衡
よるひるのかずはみそぢにあまらぬをなど長月といひはしめけん

躬恒
秋ふかみこひする人のあかしかね夜を長月といふにやあるらん

よみ人しらず
水のあわやたねとなるらんうきくさのまく人なみのうへにおふれば

恵慶法師
たねなくてなき物草はおひにけりまくてふ事はあらじとぞ思ふ

好忠
わがことはえもいはしろのむすび松ちとせをふともたれかとくべき

よみ人しらず
あしひきの山のこでらにすむ人はわがいふこともかなはざりけり