和歌と俳句

若山牧水

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借り住まふ 邸の庭に かぞふれば 木がくれて咲く 五本の梅

春はやく 咲き出でし花の 白梅の 褪せゆくころぞ わびしかりける

花のうちに さかり久しき 白梅の 咲けるすがたの あはれなるかも

老いたるは 夙く散りうせつ 枝長き 若木の梅は 褪せながら咲く

ゆくさくさ 仰ぎてすぐる わが門の あせぬる梅を うとみかねたり

庭石の 錆びたる上に 枝垂れて 咲きぬる梅の 花のましろさ

うすべにに 葉はいちはやく 萌えいでて 咲かむとすなり 山桜花

うらうらと 照れる光に けぶりあひて 咲きしづもれる 山ざくら花

花も葉も 光りしめらひ われの上に 笑みかたむける 山ざくらはな

かき坐る 道ばたの芝は 枯れたれや 坐りて仰ぐ 山ざくら花

おほみ空 光りけぶらひ 降る雨の かそけき雨ぞ 山ざくらの蔭に

瀬瀬走る やまめうぐひの うろくづの 美しき春の 山ざくら花

山ざくら 散りしくところ 真白くぞ 小石かたまれる 岩のくぼみに

つめたきは 山ざくらの性に あるやらむ ながめつめたき 山ざくら花

岩かげに 立ちてわがみる 淵のうへに 桜ひまなく 散りてをるなり

朝づく日 うるほひ照れる 木がくれに 水漬けごとき 山ざくら花

峰かけて きほひ茂れる すぎやまの ふもとの原の 山ざくら花

吊橋の ゆるるあやふき 渡りつつ おぼつかなくも 見し山ざくら

椎の木の 木むらに風の 吹きこもり ひと本咲ける 山ざくら花

椎の木の しげみが下の そば道に 散りこぼれたる 山ざくら花