和歌と俳句

若山牧水

15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28

窓さきの 冬の木に来て 啼く鳥は 昨日もけふも 山雀の鳥

目白鳥 なきすぎゆけば 朝静の 庭木がうれに 山雀の啼く

石菖の 花咲くことを 忘れゐき うすみどりなる 石菖の花

道うへの 井手に茂りて 片なびく 石菖草の 風のかがやき

なめらかに 水越えおつる 濡石に 鶺鴒ゐて 啼く声きこゆ

吊橋の 上は木立の さびしさよ 川下とほき 瀬瀬の月かげ

瀬瀬に立つ 石のまろを おもふかな 月夜さやけき 谷川の音に

梨の木に もとふ藤蔓 咲きいでて 梨かとぞまがふ 梨の花のあひに

茂り葉に こもりて白き 房花の 咲きしだれたる 茂り葉馬酔木

雪なせる みじかき房の すずなりに 咲きて垂りたり 馬酔木の花

青あらし 吹き落ち来る 谷川の 椎の木かげを ゆき行きて釣る

踏みわたる 石のかしらの 冷やかさ 身にしむ瀬瀬に 河鹿なくなり

なめらかに 石こゆる瀬に まひあそぶ 羽虫とりつつ 啼くや河鹿は

山の蔭 日ざしかげれば 谷川の ひびきも澄みて 河鹿なくなり

山ぞばの かけ橋わたる 春の日に 匂ふ若葉の なかのかけ橋

山そばの かけ橋わたる われの上に 啼きすましたる うぐひすの声

湯げむりの 立ちおほひたる 谷あひの 湯宿を照らす 春の夜の月

水を掩ふ 薮いたどりの 葉かげなる 羽虫に跳ぬる 鮎の子の群

うちむれて およぐ鮎子に ほどのよき 井手の流の 瀬のつよみかな

なめらかに なびく川藻の ひとふさの なびける蔭を ゆける鮎の子

なめらけき 尾鰭のふりや 浅き瀬の 石の垢つつく 鮎の子がふり

なめらかに 日のさす石の かげにゐて 尾鰭さやけく およぐ鮎の子