若山牧水

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犬山の 城に上り立ち わが見るや 尾張だひらの 秋のくもりを

桑畑の 中をすぎ来て かへりみる 犬山の城は 秋霞せり

立ち入れば 陶器つくりが 小屋のうち うす暗き奥に 素焼はならぶ

火を入れぬ 竈のすがたの さびたるに 射して静けき 秋の日のかげ

枯れし葉と おもふもみぢの ふくみたる この紅ゐを なにと申さむ

露霜の 解くるが如く 天つ日の 光をふくみ にほふもみぢ葉

ゆきりなく 梢はなれて まひうかぶ ひと葉のもみぢ 玉と照りたり

神無月 まだ散りそめぬ もみぢ葉の あまねき山の かなしかりけり

鏡なす けふのこころに 照りうつる 深山の紅葉 かなしかりけり

しめりたる 落葉を踏みて わが急ぐ 向ひの山に 燃ゆるもみぢ葉

見おろせば 迫りて深き 山峡の かげりつめたき 森のもみぢ葉

下草の 薄ほほけて 光りたる 枯木が原の 啄木鳥のこゑ

啄木鳥の たむろどころと つどひたる 枯木が原の きつつきの声

きつつきの 声のさびしさ 飛び立つと はしなく啼ける 声のさびしさ

くれなゐの 胸毛を見せて うちつけに 啼くきつつきの 声のさびしさ

白木なす 枯木が原の うへにまふ 鷹ひとつ居りて きつつきは啼く

ましぐらに まひくだり来て ものを追ふ 鷹あらはなり 枯木が原に

とびうつる 枯木が原の きつつきの するどきすがた 光りたらずや

和歌と俳句