和歌と俳句

若山牧水

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16

富士が嶺に ひと夜に降れる 初雪の 峰白妙に 降りうづめたる

わが門の 草に残れる よべの雨の 露しげくして 富士は初雪

をりをりに 姿見えつつ 老松の 梢しげみに 啼きあそぶ鳥

老松の 枝さしかはす あひにをりて まひあそぶ冬の 小鳥どちかも

まふ鳥の 影あきらけき 冬の朝の この松原の 松のそびえよ

楽しげの 鳥のさまかも 羽根に腹に 白々と冬日 あびてあそべる

枯松に まひくだりたる 椋鳥の むれてとまれる むきむきなれや

茂りあふ 松の葉かげに こもりたる 日ざしは冬の むらさきにして

うち聳え 茂れる松の うれにをりて こまやかに啼ける 繍眼児なるらし

鵯の鳥 なきかはしたる 松原の 下草は枯れて みそさざいの声

まろやかに なびき伏したる 冬枯の 草むらのなかの みそさざいの声

ひといろに すがれ伏したる 草むらに 花ともみえぬ うすむらさきのはな

房なせる 実の見えてゐて 真さかりの 櫨の紅葉の うつくしきかな

時すぎし 紅葉の枝に ふさふさと 実を垂らしたる あはれ櫨の木

時雨すぎし 松の林の 下草に なびきまつはれる 冬の日の靄

ありしとも わかぬほのけき 夕月の かかりてぞをる 松のうへの空に

松原の なかのほそみち 道ばたに なびき伏したる 冬草の色

木々の葉に 草のもみぢに おきわたし いま静かなる 朝霜の原

冬といへど ぬくき沼津の 海ぎしの 森のみどりに させる天つ日

冬の日に 照りてぞ匂ふ 櫨紅葉 その木のもとに 立ちてあふげば