和歌と俳句

若山牧水

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篭り居の 部屋のガラス戸 輝きて うららけき今日を 松風聞ゆ

老松の うれの茂みに 吹きこもり とよめる風を 聞けば春なり

とりどりに 庭の小石の かがやける けふうらら日の 白梅の花

わがたけに たらずとおもふ ひと本の 若木の梅の 花のま白さ

部屋のうちに 火なきはさびし 火のありて 湯釜に湯気の 立たざる淋し

櫨の実ぞ 落ちてかかれる 枯萱の うすら赤らみて 立てる葉先に

藁の灰 あたらしければ ちさき炉の めぐりこのごろ よごれがちなる

静かなる 椿の花よ 葉ごもりに 咲きてひさしき 椿の花

枯草の おどろがなかに ひともとの 椿かがやく 葉は葉の色に

風凪ぎて 椿はひとり 光りたり 冬野の晴の 枯草のなかに

ひともとの 椿の花に 寄りてゆく わらべたち見ゆ 枯草がくれ

からみたる 草枯れはてて 冬の野の 椿は花の いよよ咲くなる

ねざめゐて 起きいでぬ部屋に 聞え来る やぶうぐひすの 声の親しさ

雨戸いまだ さされし部屋の 暁に 聞えたるかも 藪鶯は

枯れ伏して 草すさまじき 如月の 野に啼きすます うぐひす一羽

枯草の 伏しみだれたる あらはなり 雨降り過ぎて 鶯の啼き

枯草の かげにこもれる 鶯の をさなき声は 移りつつ聞ゆ

梅の花 白く咲きたり 暁の 闇ほのかなる 庭木がなかに

葉のしげみ うち枝垂れつつ 枝ごとに 椿花咲けり その葉ごもりに