和歌と俳句

若山牧水

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部屋にまだ 灯のあるものを みそさざい 障子のそとの 竹に来啼ける

うら寒き 茜かき流し わが障子 煤びし染めて 朝日さしきぬ

野末なる 山の端ゆさし わが部屋に あまねき冬の 朝日なりけり

富士が嶺の 麓ゆ牛に 引かせ来て 山桜植ゑぬ ゆゆしく太きを

冬ふけて いよよ葉の色 ふかみたる 山梔子の木の 葉がくれの実よ

冬青木の木に 実のなることを 知らざりき さんごのたまの 赤き粒の実

庭石の かげに咲きたる 沈丁花 いま咲ける花は この沈丁花

ガラス戸を ぬぐひ浄めて すがしきに 透りて見ゆる 庭木々の冬

ひとところ あけおける障子の 間より 見ゆるはただに 枯芒の原

上枝より こぼれ落ちたる みそさざい 胡頽子の下枝に 落ちとまり啼けり

縁先の ちさき茂みの 布袋竹に 朝ごと来啼く みそさざいの鳥

つぎつぎに 所を変へて なく鳥の みそさざいはなく 常に低き枝に

鉄瓶を 二つ炉に置き 心やすし ひとつお茶の湯 ひとつ燗の湯

夜為事の あとを労れて 飲む酒の つくづくうまし 眠りつつ飲む

ゐろりなる すすけ鉄瓶に 影さしぬ 障子の穴ゆ 漏れし朝日は

てのひらに こぼるるばかり 持ちたれば 椎の実の粒は ひえびえとして

椎の実の 黒くちひさき 粒々を てのひらにして 心をさなし

栗の実の 甘さはなけれ 椎の実の このあまからぬ ありがたきかな

鬚の中に 白きがまじる 歳になりて いよよ親しき 椎の実の味