和歌と俳句

若山牧水

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ありがたき 夕暮ごとの 一風呂や ぬる湯このみて 長湯するなり

さし出でて 池の上に咲く 躑躅の花 水にうつりて 深きくれなゐ

縁さきに なり枝垂れたる 茱萸の実の 熟れ赤らみて 枝折れむとす

やうやくに 竹の形を なしきたり 若竹どちの うちそよぐなる

わが庭の 池のはたなる 梅の木も 三もと並びて 咲きいでにけり

妻が眼を 盗みて飲める 酒なれば 惶て飲み噎せ 鼻ゆこぼしつ

足音を 忍ばせて行けば 台所に わが酒の壜は 立ちて待ちをる

熟麦の うれとほりたる 色深し 葉さへ茎さへ うち染まりつつ

うれ麦の 穂にすれすれに つばくらめ まひ群れて 空に揚雲雀なく

立ち寄れば 麦刈にけふ 出で行きて 留守てふ友が 門の柿の花

真昼間は たまたまになく 河鹿の声 起りたるかも 川瀬のなかに

藤蔓の 葉の茂みより こぼれ落ちし 川蝉の鳥は 水にむぐりぬ

すずめ子の おりゐて遊ぶ 縁先の 庭のしめりの なつかしきかな

雨蛙 なきいでにけり とりどりの 木々の若葉の ゆれあへる中に

いつせいに さやぎたちたる ならの木の 若葉のさやぎ さやかなるかも

軒端なる 藤の若葉の 明るきに さしとほりたる 水無月の日よ

をりをりに 縁に散り込む うす黄なる 竹の葉ありて 水無月の風

軒端なる 若竹叢に あふぎたり 思ひがけざりし こよひの月を