聞きをりて 笑みこそうかべ みそさざい ひたきも声の みなあはれなる
庭くまを 啼きうつりをる みそさざい 聞きゐつつおもふ 庭の落葉を
朝闇の 残れるほどは 川辺より わが庭に来て あそぶ水鳥
水鳥の ものをはばかる ふくみ声 あかつき闇の 庭より聞ゆ
手繰網 引ける姿の あはれなり けふ冬凪の 浜の渚に
椿の葉 つやだち光る 日和なり くるほしく起る 鵯鳥の声
葉漏日の かがよふ森の 葉がくれに 咲き枝垂れたり 椿の花は
石あらき 桃のはたけを うちならす 音の聞えて 二月となりぬ
桃ばたけ 打ちならされて 明るきに 枝々の蕾 咲き出でむとす
渓水に 濁りぞ見ゆる 山ざくら 咲きなむとして 雨のしげきに
萌えたてる うすべにの葉の ゆたかにて 花いまだしき 山ざくら花
湛へたる 淵のみぎはの 岩の面に 苔まさをなる 春の曙
曙の もののしめりの 深ければ 芽ぶける木々の 立ちて静けき
朝づく日 峰にのぼりて 山の蔭 けぶらふ渓の 山ざくら花
寒かりし ひと夜の雨に みかさまし 流るる渓の 山桜花
よべ降りし 雨に濁れる 渓の瀬に つるみて遊ぶ 川烏鳥
楢の木の 芽ぶく木の間に まひあそぶ 樫鳥のすがた あらはなるかも
樫鳥の 群れて遊べる 岡に見ゆ 春しらたへの 大富士の山
富士の嶺の 裾野のなだれ ゆたかなる 片野の春の 今はたけなは