和歌と俳句

若山牧水

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つばくらめ 飛びかひ啼けり この朝の 狂ほしきばかり 重き曇に

窓あけて なほ耐へがたき 深曇 くもれる空に 燕啼くなり

親竹は 伏し枝垂れつつ 若竹は 真直ぐに立ちて 雨に打たるる

降り入れる 雨に葉末を ことごとく ふるはせてをり 若竹むらは

筍の 落せる皮を 拾ひ持ちて この美しきに こころうたれつ

障子ごしに 聞き入れば いよよ音たてて 軒端の竹に 雨の降るなる

真盛りを 過ぐれば花の いたましく ダリヤをぞ切る この大輪を

梅雨空の 曇深きに くきやかに 黒み静まり 老松は立つ

ゆれたてば 音こそ起れ 青嵐 吹き渡る軒の 若竹むらに

紫陽花の 花をぞおもふ 藍ふくむ 濃きむらさきの 花のこひしさ

酒ほしさ まぎらはすとて 庭に出でつ 庭草をぬく この庭草を

芹の葉の 茂みがうへに 登りゐて これの小蟹は ものたべてをり