和歌と俳句

若山牧水

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みそさざい いつと啼き出ぬ わが部屋の 障子のそとは まだ明けやらず

日いまだし 明の蒼みを やどしたる 障子のそとの みそさざいの声

遠山の 箱根の峰に 出づる日の ひかりまともに わが部屋にさす

朝づく日 野ずゑの山に 昇りけむ 障子に竹に 影さやぎたちぬ

藁灰の みにくかれども やはらかに 火をたもてれば 炉には満たせる

膝寄せて もろ手かざせば 炉のなかの 燠は静かに 燃え入りてをる

藁の灰 減りやすくして 囲炉裡寒し 新たに焚きて 添ふべくなりぬ

野の萱を 編みて作れる 炭俵 冬野のにほひ ふくみたるかも

山萱を 荒編なせる 俵焚きて 作れる灰をの 荒く真黒し

神去りたまひぬといふ よべの夜半に つひにとこしへに 神去りたまひぬ

おん病 あつく永びき おはしましき 今は終りと ならせたまひぬ

うつし世に をろがみまつる 稀なりし わが大君は 神去りましぬ

武蔵野の 大野の奥の 静もりに しづまりたまふ 大御霊かしこ

山川の 凪ぎしづもれる 武蔵野の 野づかさ占めて 休みらはせます

御陵の辺に 生ふる木草 ともしかも 羨しかも木草 羨しかも木草

御民われ 草鞋うちはき 笠かうぶり まうでまゐらむ 野の御陵に