和歌と俳句

若山牧水

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恵那ぐもり 網張りて待つ 松原の いろの深きに 小鳥寄りこぬ

恵那ぐもり 寒けき朝を 網張りて 待てば囮の さやか音に啼く

小松原 寒けきかげに かくされて 囮のひはの 啼きしく聞ゆ

網張りて 待つやささ鳥 ちちちちと 啼きて空ゆく そのささ鳥を

百舌鳥啼くや 居るにをられぬ わびしさの 募れる今朝を 釣に出でゆく

鮒釣ると いそぐ田中の ほそ路の ゆきどまりなる 藪に百舌鳥啼く

冷やけき 稲田の路を ゆきすぎて 通る豆畑に こほろぎの鳴く

藪かげに 新聞紙敷きて かき坐り 寄る鮒まつよ 一すぢの糸に

小舟もて 釣りゆく人の 羨しさよ 竹藪かげに 糸を垂れつつ

夙くおきて 机によれば 木枯の 今朝吹きたたず 鶲啼くなり

わが庭に 来啼くひたきを 知りそめて 朝朝待つぞ たのしかりける

枯芝に 垂りたる梅の 錆枝に ひたき啼きゐて 冬晴の風

枯落葉 ちらばり動く 風の日に 鶲はひくき 枝にのみ啼く

まひうごく 庭の落葉の 色冴えて 風あかるきに 鶲なくなり

人目さけて ひとりこもらふ たのしさよ 煙草の煙 むらさきにたつ