和歌と俳句

若山牧水

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木枯の をりをり響き わたりつつ 窓の日ざしは いよよ澄みたり

ガラス越し 射す日ながらに わが頬に ほてりおぼゆる 今日の冬の日

わが窓の くもりガラスに 含み照る 冬の日ざしは あきらけきかも

午かけて 窓に射したる 冬の日の 日ざし永しと たのしみ向ふ

身にしみて うましとおもふ たべものを 何はおきても 食べたきゆふべ

いつ注ぐも こぼす癖なる ウヰスキイ こぼるるばかり 注がでをられぬ

借り住まふ 家の庭木の とぼしきに 春はやくいでて うぐひすの啼く

雪どけの 雫軒端に あまねきに 庭の木立に うぐひすの啼く

とりどりの 煙あがれり 斑ら雪 消えのこる春の 田末の町に

わが傍 追ひ越す人の あまたありて 冬田の中の 路は晴れたり

冬田中 あらはに白き 路ゆけば ゆくての浜に あがる浪見ゆ

田につづく 浜松原の まばらなる 松のならびは 冬さびてみゆ

朝たけて 昼と思ふに 松原の 松の根に這ふ 冬の靄かも

桃畑を 庭としつづく 海人が村 冬枯れはてて 浪ただきこゆ

門ごとに 橙熟れし 海人が家の 背戸にましろき 冬の浪かな

冬さびし 静浦の浜の 松原に うち仰ぐ富士は 真白妙なり

うねりあふ 浪相打てる 冬の日の 入江のうへに 富士の高山

浪の穂や 音にいでつつ 冬の海の うねりに乗りて 散りて真白き