和歌と俳句

東風

東風がうつ水田の面さと翳り 風生

傷兵に今日のはじまる東風が吹く しづの女

軍隊の短き言葉東風に飛ぶ しづの女

われもまた人にすなほに東風の街 汀女

征く人の御父尊と東風の駅 汀女

みいくさに東風に靴紐新しく 汀女

東風の波がぶりがぶりと杭を越え 立子

藺田の鷺東風のながれにうかみけり 麦南

東風の波塩木ひろひにしぶきけり 麦南

東風の陽の吹かれゆがみて見ゆるかな 蛇笏

東風の月祷りの鐘もならざりき 蛇笏

供華売りに日影あまねく楡の東風 蛇笏

時計舗の犬懶惰にて楡の東風 蛇笏

路あまたあり陋巷に東風低く 草田男

東風の窓子に教ふべきこと尽きじ 鷹女

玉津島袴わすれし東風の禰宜 茅舎

浜遊園東風の噴水のみ生きもの 

東風すさび燈台の灯の長くなり来ぬ 

禽は地をあさりて瑞枝東風吹けり 蛇笏

初東風とかはりし夕べはれにけり 石鼎

東風の波舳走りて艫沈み 汀女

俥屋のすぐうなづきて東風の道 汀女

東風の涛谷なすときぞ隠岐見え来 楸邨

船曳や東風の白浪泡だちゆく 楸邨

隠岐深き東風の四五戸の出征旗 楸邨

東風の日や啼く鳶天にとどまりて 蛇笏

東風ふいて巣箱にひくき穂高嶽 蛇笏

東風つよし三日月の弧のやや歪み 林火

嘶きてはからだひからせ東風の馬 林火

巷への道白く東風の扉につづく 林火